海外の動向

I-1) 海外の動向

 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染症COVID-19は、2019年 12月に中国湖北省武漢市でアウトブレイクが起きて初めて発見されました。現在では世界的に感染が拡大し、2020年6月には、総症例数は700万人を超え、死者数は40万人に上ります。新規感染者数は4月初旬に10万人/日に達しその後緩やかな減少傾向でしたが、5月頃から横ばいとなり、6月に入ってからは12-13万人/日と、増加傾向を認めます。1日当たりの死者数は4月頃の6〜7千人/日ほどではありませんが、4〜5千人/日と高止まっていて、死亡率はおよそ6-7%で推移しています。各国で様々な対策が講じられているにも関わらず世界な感染者数の増加は続き、人類が直面する大きな危機となっています。

国別に見ると、累計患者数が最も多い国は北米で、ブラジル、ロシア、イギ リス、インドが続きます。 1 日あたり新規感染者数は順に 6 月現在、新規感染者数が右肩上がりの増加を続けているのはブラジルなど中南米、インドなどア ジア諸国、およびアフリカ諸国です。中南米は世界の新規感染者の 3-4 割、アジアが 2 割程度を占めていて、感染拡大の中心は欧米の先進国から新興・途上国へと移っています。これら地域には医療基盤が脆弱で、スラム街など、劣悪な住環境で暮らす人々が含まれるため、感染の爆発が憂慮されます。また、医療のみならず経済的および社会的基盤も不安定な国もあり、十分な対策を講じることができないため感染が蔓延し続け、これら国々からの人の流入の度に世界中で感染が燻り続ける可能性が世界的懸念となっています。

特に現在感染者数の増加が著しいのはブラジルです。累計感染者数は 77 万人を超え、死者数は 4 万人に迫り、今尚指数関数的に新規感染者数は増加していて将来的には米国を凌ぐ可能性があります。ブラジルはスウェーデンと同様 に suppression の政策を取らずに経済活動を優先し、国民の自然免疫獲得を待つという政策を取っています。 COVID-19 の再生産率 (一人の患者が感染させる人数) は 2.5 程度とすると、感染者数が減少に転じるために有効な自然免疫域値は { (1-集団免疫率) x 再生産率 < 1となる集団免疫率 } 60%程度です。感染爆発したニューヨークでさえ、集団免疫率は 10% 未満だったので、ブラジルでは 4 万人の死者を出しながら有効自然免疫獲得には遠く及ばないことがわかります。スウェーデンもブラジル同様の政策で、累計感染者数 4 7 千人、死者数 4800 人となっており、人口 10 万人あたりの死者数は 48.0 人で、近隣のノルウェー 4.49 人、フィンランド 5.85 人のおよそ 10 倍となっています。

COVID-19 に対するワクチンも特効薬もない状況で、その他の国は公衆衛生学的介入、具体的には social distance の維持などによる suppression を軸とした封じ込めの政策を取っています。そして、感染のピークを脱した国は順次、 強い suppression から緩和 (mitigation) へと徐々に政策転換してきました。まず、感染が最初に報告された中国では 4 8 日に武漢の封鎖を解除しました。その後、感染の拡大は報告されていません。また、韓国でも感染封じ込めのための規制が緩和された後、5月末に小さな感染急増がありましたが、徹底的なクラスター対策によって感染拡大を免れています。

欧米諸国も都市のロックダウンなど強い suppression の政策を 4 月末から 5 月にかけて緩め始めました。世界一の感染国である米国は、累計感染者数はおよそ 200 万人、死亡数は 10 万人に上ります。 4 月上旬までに見られた急激な感染者増加は落ち着いたことを受け、州ごとに制限を緩和し始め 5 月末には全米全ての州が緩和政策に舵を切ったものの、依然 1 2 万人/日の新規感染者が現在も発生し、 2-3 千人/日程度の死亡例を認めます。半数以上の州では実効再生産数( 1 人の感染者が生み出す新規感染者数の平均値)が 1 を超えていることから、再び感染者の急増が懸念されていますが、厳しい規制による経済活動の停滞も国民の安全を脅かしかねないという側面が考慮されました。イギリス、ロシアも米国同様十分な感染抑制を待たずに緩和政策が導入されたためか、新規感染者数は高止まりの傾向です。

先に感染の波に襲われたイタリア、スペインなどヨーロッパの国々では 5 月中旬頃に規制を段階的に緩和してきましたが、新規感染者数および 1 日あたりの死者数は減少してきています。

ヨーロッパの各国とほぼ同時期から感染の波を受けたイランですが、感染第二波の到来が明瞭となってきています。累計感染者数 18 万人、死者数 8 千人のイランはヨーロッパとほぼ同時期の 3 月末に感染のピークを迎え 3 千人/日の新規感染者数を出した後、 4 11 日は緩和策が開始されました。 5 月初旬に 1 千人/日まで減少した新規感染者数ですがすぐに増加に転じ、 6 月になってからは再び 3 千人/日を記録しています。

各国にとって感染を封じ込めることも社会活動・経済活動を活性化することも、安定した国民生活にはどちらも欠かせないのですが、ときとして相反する政策となるため、両立は難しい問題です。

WHO: Coronavirus Disease (COVID-19) Dashboard

WHO: Novel Coronavirus (2019-nCoV) situation reports