感染の方法

III-1) 感染の方法

 ウイルスや細菌など病原体の感染経路にどのようなものがあるかお示ししたうえで、今回の新型コロナウイルスで明らかにされてきた感染経路とその対処法をおつたえします。

<感染経路の種類>

1)空気感染

 飛沫核感染;感染者から排泄された飛沫核を直接吸い込むことで感染します。飛沫核は飛沫から水分が蒸発することでも形成されます。
 塵埃(じんあい)感染:病原体に汚染された土壌や床から舞い上がった埃(ほこり)を吸い込むことで感染します。 

2)飛沫感染

 咳などで出た飛沫を吸い込んだり、飛沫が鼻や目などの粘膜に付着することで感染します。

 3)接触感染:患者と接触したり、病原体のついたドアノブ・食べ物などを介して感染します。
  経口感染:病原体で汚染された食べ物や水、病原体で汚染された手で食事をすることなどで感染します。
  粘膜感染:患者の血液や体液などが目や鼻の粘膜に付着することで感染します。
  性行為感染:性行為により病原体が伝播します。

 4)母子感染:病原体が胎盤や母乳を通じて、あるいは出産時に産道から感染します。

 5)経皮感染:蚊にさされたり、動物にかまれることで感染します。患者の血液のついた針を誤って医療従事者が自分の手などにさしてしまう、いわゆる針刺し事故もこれに分類されます。 


<コラム> エアロゾル感染とは? 飛沫感染と飛沫核感染の違い
 エアロゾル感染という言葉を耳にすることも多いかと思います。そもそもエアロゾルとは、気体中に液体ないしは固体の微粒子が広がった状態を指していて、ほこりや花粉、霧などが含まれます。微粒子の大きさは数nmから100μm程度まで様々です。
 エアロゾル感染というのは、このような空気中をただよう微粒子内に病原体が含まれていて、この微粒子を介して感染することを指しており、感染経路として「飛沫感染」と「飛沫核感染」を包含している用語です。この2つの感染経路は、名前は似ていますが、対策方法が下記の表の様に大きく異なります。
 なお、「エアロゾル感染」という言葉は文脈により飛沫感染のことしか指していない場合や飛沫核感染のことを指しているもあり、解釈には注意が必要です。


飛沫感染 飛沫核感染
サイズ 直径5μm以上 直径4μm以下
特徴 重いのですぐ落ちる
飛距離1-2m程度
軽いので長時間浮遊する
発生源 咳、くしゃみ、会話など 飛沫から水分が蒸発
痰の吸引などの医療処置
主な病原体 インフルエンザ、RSウイルス、百日咳など 麻疹、水痘、結核など
病院での対応

標準予防策に追加

標準予防策:手洗い、体液に触れる時は手袋、体液が飛散するときはマスク・ガウン・ゴーグル(またはフェイスシールド)
サージカルマスク
(医療従事者)
できれば個室管理
無理ならカーテン隔離

N95マスク(医療従事者)
(毎回フィットチェック(ユーザーシールチェック)を行う)
陰圧個室管理

病室から出る際には患者にサージカルマスク
必要に応じて接触感染対策(室内に入る度にマスク・ガウン)もあわせて行う
防護具の着脱のトレーニングを行う

 新型コロナウイルスの感染経路は、飛沫感染と接触感染が主であり、特殊な環境では飛沫核感染があると考えられています。これらは、それぞれいわゆる「3密」の密集・密接・密閉状態を避けることで感染機会をへらすことができます。(Cf.ポスター「3つの密を避けましょう」https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000614802.pdf

 3密が重なると、クラスターの発生リスクとなるといわれていましたが、感染が広がっている状態を考えると、3密の1つでもリスクと考えて、極力避けることが望まれます。

 まず、飛沫感染を防ぐため2m以上の距離をあける、「密集」を避けることが大切です。また、くしゃみでは時速300kmで飛沫が飛散し、3m以上に届くこともあるとされています。咳エチケットと呼ばれるように、咳・くしゃみの際にマスク・ハンカチ・袖などで口を覆うことで、初速を抑えてできるだけ飛散距離を短くすることが感染対策に重要です。今回の新型コロナウイルス感染症では症状の強さと感染力の強さが一致しないといわれており、また発熱していなくても感染力があるという報告もあります。そのため、流行期には皆が「自分もコロナウイルスを無症状病原体保有者かもしれない」と思ってマスクをして周囲に自分からの飛沫を広めないことが重要です。

 接触感染については、文字通り接触を避ける、接触したら水で洗ったり、除菌することが必要です。現在眼・鼻・口の粘膜からの感染が報告されていますが、健常な皮膚からの感染はないと考えられています。その一方で物に付着したウイルスは4-72時間程度感染力があると考えられています。そのため、ウイルスを自分の体(特に手)や物に付着させないことと、付着しているかもしれない状態で首より上を触らないことが重要です。

 さいごに飛沫核感染です。これは空気中をウイルスを含む微粒子がただようことで起きるため、換気が重要です。飛沫核感染は医療処置など特殊な状況で起こると考えられていますが、新型コロナウイルスは飛沫から水分が蒸発した飛沫核内であっても3時間程度は感染性を有するとの報告もあり、密閉空間を避け換気をしたほうがよいと考えられています。病院で用いられているN95マスクは、飛沫核感染の防止に有効ですが、漏れがないように毎回フィットチェック(ユーザーシールチェック)が必要で、逆に漏れがないようにつけると息苦しさを感じるため、感染対策としては医療機関以外で使うことはありません。医療機関においてもN95マスクは現在不足気味で、再利用を行ったり、アメリカ疾病予防管理センター(CDC)ではフェイスシールド+サージカルマスクでも許容するとの指針をだしている状態です(https://www.cdc.gov/coronavirus/2019-ncov/downloads/COVID-19_PPE_illustrations-p.pdf 2020.4.23.)。工事現場などで使う防塵マスクとして同様の規格のマスクが使われることがありますが、市販されていても購入しないようにしましょう。