運動不足への対処

V-3) 運動不足への対処

 現在東京大学は活動制限指針のレベルが3となり、2020416日からは政府から全都道府県を対象に緊急事態宣言が発出されました。これはもちろん新型コロナウィルス感染症の感染拡大を防ぐことが最大の目的です。

 みなさんは、オンライン授業、課外活動の禁止、在宅勤務・テレワークが中心となることによる運動量減少などから運動不足になりやすいと思われます。

 しかし、このような状況においても、身体機能維持、体力や免疫力の向上のために、運動することはとても大切です。

 運動は、様々な疾病の罹患率や死亡率を下げると言われています(※1)。実際に、例えば、身体活動量(「身体活動の強さ」×「運動時間」の合計)が多いほど、生活習慣病などの予防効果が高く、高齢者では転倒やけがのリスクが減少するといった報告(2-3)、適度な運動習慣が免疫力を高めるといった研究報告(4-6)があります。

 運動強度の指標には、METs(メッツ)や自覚的運動強度(PRE)などがあります。「1日1万歩」(1)、無理なくジョギングする程度などがすすめられることも一般的には多いですが、もし何か持病がある場合は、主治医に確認しておくと良いでしょう。運動の持続時間・頻度は、連続して30分以上で、少なくとも2日に1回、できれば毎日が理想、などと言われています。もしまとまった時間がとれなくても10分程度の歩行など、短時間で手軽に取り組める運動を1日に数回程度行うことでも健康上の効果が期待できます。数分程度のちょこちょこした運動も効果があると言われていますので、家の中の家事でも何でもこまめに体を動かすことも大切です。

 運動の強度や時間も大切ですが、まずは「運動の習慣」を身につけることが大切です。「運動」という言葉から受ける印象は人それぞれですが、「気晴らし」「気分転換」「リセット」「健康」「筋トレ」「脳トレ」「鍛える」「暇つぶし」「笑顔」「家族の時間」「音楽」「映画鑑賞」「パソコン」「テレビ」「ストレスコーピング」などなど、何でもよいのでご自身にあった「ポジティブな言葉」とセットにして行うと、続けやすいでしょう。例えば、パソコンを高い台の上において、たまには立ったまま仕事をする、と頭も活性化されるかもしれませんし、朝晩のメールチェックなどは運動しながらできるだけ短時間に終わらせる、新型コロナウィルス感染症関連のニュースは運動しながら見る、と良いストレスコーピングになるかもしれません。好きな音楽を聴きながら運動する、家族と一緒に時間を決めて運動する、など、他にもいろいろなアイデアがあるでしょう。バランスボールやバランスボード、体幹トレーニング、ゴムチューブでの運動など、自分のタイプに合った運動を見つけるのも楽しいでしょう。ただし、運動しすぎて体を壊さないよう、持病のある方は主治医に相談し、また一般的にも、少しずつはじめて、徐々に負荷を上げていくことが大切です。

 日本運動疫学会では「新型コロナウィルス感染症対策における外出自粛の要請にともなう身体活動不足や座りすぎによる健康被害を防ぐために、「家の中やその周辺において人と人との距離を充分にとって実施する身体活動」を推奨します(※8より引用)」との声明をプレリリースしました(2020420)。具体的な運動の仕方について、年代別に、参考になる動画なども含めて詳しく紹介されていますので、ぜひご参照ください。

・日本運動疫学会声明文(※8)
http://jaee.umin.jp/doc/covid19.pdf

・厚労省による「健康づくりのための身体活動基準2013
https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000002xple-att/2r9852000002xppb.pdf
 

・主な身体活動や運動の強度(METs) 国立健康・栄養研究所HPよりhttps://www.nibiohn.go.jp/eiken/programs/2011mets.pdf

「体重」もモチベーションになるかもしれません。ただし、体重にそれほど大きな変化がなくても運動によって身体機能は高まりますので、あまり体重を気にしすぎて、運動が「嫌い」にならないように、気をつけましょう。

新型コロナウィルス感染症対策としては、以下のことに注意しましょう。今までトレーニングを行ってきた方も、ご自身の運動が適切かを見直した上で、継続されるとよいでしょう。
 ・「三つの密」を避ける:運動は換気量が増大するような活動ですので、「三密」に気をつけないと、ウィルスを吸い込んで、クラスターが起こるリスク(環境)になります。
 ・密閉を避ける:屋内で運動を行う場合は、換気を忘れずに。
 ・密集、密接を避ける:Physical Distancing(7)(接触機会を減らすこと、人と人の距離を空けること) を心がけることが大切です。
 ・不要不急の外出を自粛する
 ・接触感染に注意する:共用スペース(ロッカー、運動器具、その他)の利用は、接触感染のリスクを高めます。このようなリスクは出来るだけ避け、接触のあった際には、こまめな手洗い、手指消毒、手を首より上に触れないなど、注意しましょう。外出後はすぐにシャワーや入浴などもおすすめです。

自宅近くの屋外で、一人で、人ごみを避けて行うと理想ですが、これが難しい場合でも、おしゃべりをしない、ボディタッチは避けることを心がけましょう。

 以上のような観点から、新型コロナウィルス感染症感染拡大防止のために、自粛が呼びかけられているスポーツもあります。下記は一例ですが、「うつらない」「うつさない」ためには、人の移動や接触を減らすことが何より大切であることを肝に命じて、今の時期に合った運動をするように心がけましょう。

・日本山岳会(2020420) 山岳スポーツ愛好者の皆様へのお願い/山岳四団体
https://jac1.or.jp/event-list/event-guide/202004207602.html

・日本サーフィン連盟(2020422) 全てのサーファーの皆さんへ
https://www.nsa-surf.org/news/20200422/

 新型コロナウィルス感染症への対応は大変なことも沢山ありますが、良い運動習慣を身につければ、感染防止だけでなく、将来のみなさんの健康のためにも、大いに役立つことでしょう。今、個々に求められていること、社会全体で必要なことに注意しながら、運動不足になりやすい今だからこそ積極的に運動をして、ポジティブなことを少しでも多く広げて、この難局を乗り切っていきましょう。

(※1)厚生労働省 身体活動・運動
https://www.mhlw.go.jp/www1/topics/kenko21_11/b2.html

(※2)JAMA 1995 Feb 1;273(5):402-407
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/?term=JAMA+1995%3B273%3A402-407

(※3)JAMA 1995 May 3;273(17):1341-1347
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/7715058

(※4) Med Sci Sports Exerc. 1991 Jan ;23(1):64-70.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/1997814

(※5)スポーツ科学研究. 2 :122-127,2005
http://waseda-sport.jp/paper/512/512.pdf

(※6) Med Sci Sports Exerc. 2007 Aprir;39(4):593-598.
https://journals.lww.com/acsm-msse/Fulltext/2007/04000/Effect_of_Free_Living_Daily_Physical_Activity_on.3.aspx

(※7)WHO Director-General’s opening remarks at the media briefing on COVID-19-25 March 2020
https://www.who.int/dg/speeches/detail/who-director-general-s-opening-remarks-at-the-media-briefing-on-covid-19---25-march-2020

(※8)日本運動疫学会声明文
http://jaee.umin.jp/doc/covid19.pdf