若年者と新型コロナウィルス感染症

V-2) 若年者と新型コロナウィルス感染症

現在東京大学の活動制限指針のレベルはレベル3であり、みなさんはきっと予想だにしなかった生活を余儀なくされていることと思います。

なぜ、このような活動制限が必要なのでしょうか?

この新型コロナウィルスは、これまでの新型ウィルスとは異なる性質を持っています。

これまでの新型ウィルス(SARSなど)では、感染すると重症化するのですが、その反面感染が見えやすい特徴がありました。しかし、今回の新型コロナウィルスは感染しても多くが無症候あるいは軽症のため、感染が見えにくいのが特徴です。

実際に、中国の72,314人のデータ(1)によると、44672(61.8%)の新型コロナウィルス確定患者のうち(中国疾病対策センター)、軽症(肺炎なし〜軽度肺炎)は36160(80.9%)、死亡1023(2.3%)でした。

新型コロナウィルスの感染から発症までの潜伏期間は1日から12.5(多くは4-5)と考えられています。いくつかの研究結果からは、無症候あるいは軽症でも感染が広がる可能性があるとの指摘もあります(2)。つまり、自分で「うつった」ことに気づかないうちに、他人に「うつしてしまう」ことがあるのです。

また、厚生労働省の新型コロナウィルス感染症の国内発生動向(3)(202041918時時点)によると、年齢階級別陽性者数から20歳代から50歳代を中心に感染者がひろがっていることがわかります。年齢階級別死亡数・重症者数から、重症化する比率は高齢者の方が高く、青壮年期層(10歳代後半から50歳くらい)は無症候あるいは軽症が多いことがわかってきました。この傾向は、海外でも報告(4、※7)されています。つまり、若年者は無症状で人に「うつしてしまう」可能性に特に注意する必要があります。

(厚生労働省新型コロナウィルス感染症国内発生動向(3) 202041918時時点)

上気道のウィルス排出量は重症度ではなく年齢に依存しているという報告(※5)もありますが、青壮年期層の中にも例外的にウィルス排出量の多い人がいると、規模の大きいクラスターを形成しやすくなるといわれています。
クラスター対策班の分析から、接客を伴う飲食店でクラスターが起こりやすいと考えられています。唾液の中に発症初期からウィルスが排出されていることから、唾液が感染源になっている可能性も報告(※5)されています。したがって、専門家会議などで提言されている生活上の注意をよく守り、自分が「かからない」だけでなく、人に「うつさない」ことをよく心がけることが大切です。

青壮年期層は、大人数で集まる機会も多く、移動の多い世代でもあります。無症候あるいは軽症(咽頭痛、微熱など)で、ウィルスに感染しているという自覚がないうちに、高齢者をはじめとした重症化しやすい人にうつしてしまう可能性があります。感染者が増えれば、医療崩壊を引き起こし、若年者も高齢者も具合が悪くても病院で治療を受けられなくなる可能性もあります。

これまでの分析からクラスターが起こるリスク(環境)についての以下のようなことがわかってきました。

  • ・換気量が増大するような活動
  • ・大声を出す、歌う
  • ・1対複数の密接した接触
  • ・接触感染は起こりうる

以上のことから、不要不急の外出の自粛、「3つの密」を避ける必要があるのです。

新型コロナウィルス感染症は人から人にうつる感染症です。したがって、みなさん一人ひとりが「うつらない」「うつさない」行動変容をすることが特に大切です。

みなさん一人ひとりが社会の一員であることを自覚し、新型コロナウィルス感染症についてよく理解し、感染拡大防止のために、自覚をもった行動をとりましょう。

 専門家会議や厚労省クラスター対策班などによる「新型コロナウィルス感染症に関する専門家有志の会」のサイト(※6)では、「秒で理解、秒で拡散」のためのメッセージがわかりやすく紹介されています。若い人が得意なこと、できることを最大限に考え行動してこの危機を一丸となって乗り切ってほしいと思います。

<コラム> 若年者は重症化しない?
若年者は、新型コロナウイルスに感染しても重症化しないのでしょうか。その答えには、まずどのような人が重症化しやすいのかを理解する必要があります。新型コロナウイルス感染症では、特定の重症化リスク因子を持つ人が重症化しやすいことがわかっています。

1)高齢者
中国(※8)やイタリア(※9)、アメリカ(※10)の患者データから、年齢が上がるほど、集中治療室に入室する患者数や死亡者数が増える傾向にあり、最大の重症化リスク因子として、年齢があげられています。

2)基礎疾患(心血管疾患、糖尿病、慢性呼吸器疾患、高血圧、悪性腫瘍など)
中国(※1)やイタリア(※9)では、これらの基礎疾患を持つ人の致命率(致命率=死亡数/罹患数、死亡率=死亡数/人口数)が高いことが示されています。

3)男性
中国(※1)では、1023人の死亡者のうち63.8%が男性であり、イタリア(※9)でも、355人のうち70%が男性であったとの報告があります。男性であるということが重症化リスクになるのかははっきりしていませんが、傾向が見られています。

4)重度の肥満(BMI 40以上)
最近の海外の報告(※11)では、ニューヨーク市の感染患者393人のうち約35.8%に肥満(BMI 30以上)、人工呼吸管理になった人130人のうち約43.4%に肥満が見られており、人工呼吸管理を要する重症例では肥満の割合が増していました。また、ニューヨーク市で新型コロナウィルス陽性患者3615人(21%がBMI 30-34、16%がBMI 35以上)の分析(※12)によると、60歳未満で肥満であると重症化リスクの可能性が高いことが示唆されています。肥満そのものが重症化リスクになるのかまだわかっていませんが、肥満は重症化リスク因子にあげられている基礎疾患を持っていることが多く、それらによって重症化しているのかもしれません。

5)喫煙
中国(※14、※15)などのデータから、喫煙者は重症化しやすい傾向にあることが指摘されています。WHO(※16)をはじめ日本呼吸器学会や日本禁煙学会では、喫煙歴は新型コロナウィルス感染症の重症化因子であるとして、禁煙をすすめています。

WHO(※18)では、重症化リスク因子として、中等度から重症な気管支喘息、慢性肺疾患、糖尿病、重症な心疾患、慢性腎疾患(透析)、重度な肥満、65歳以上の高齢者、介護施設などの入居者、免疫不全患者、肝疾患をあげています。

今のところ、若年者の重症となるケースは上記のような特定の重症化リスク因子を持っている人が多く報告されています。生活習慣の見直しによる肥満予防や禁煙など気をつけられるところから取り組んでいきましょう。

しかし、中には基礎疾患がないにもかかわらず、若年者で重症化するケースもみられます。このようなケースでは、免疫系の過剰な生体防御反応であるサイトカインストームも原因の一つではないかと考えられています(※17)。


(※1)中国疾病対策センター(中国CDC)
http://weekly.chinacdc.cn/en/article/id/e53946e2-c6c4-41e9-9a9b-fea8db1a8f51?from=timeline&isappinstalled=0

http://weekly.chinacdc.cn/en/article/id/e53946e2-c6c4-41e9-9a9b-fea8db1a8f51

(※2)米国疾病予防管理センター(CDC)
https://www.cdc.gov/coronavirus/2019-ncov/about/transmission.html

(※3)厚生労働省 新型コロナウィルス感染症の国内発生動向
https://www.mhlw.go.jp/content/10906000/000623118.pdf

(※4)Lancet Infect Dis March 30, 2020
https://www.thelancet.com/journals/laninf/article/PIIS1473-3099(20)30309-1/fulltext

(※5)Lancet Infect Dis March 30, 2020
https://www.thelancet.com/journals/laninf/article/PIIS1473-3099(20)30196-1/fulltext

 (※6) 「新型コロナウィルス感染症に関する専門家有志の会」
https://note.stopcovid19.jp

(※7) 米国疾病予防管理センター(CDC)
https://www.cdc.gov/mmwr/volumes/69/wr/pdfs/mm6914e4-H.pdf

(※8) doi: 10.1001/jama.2020.2648

(※9) doi: 10.1001/jama.2020.4683

(※10) https://www.cdc.gov/mmwr/volumes/69/wr/pdfs/mm6912e2-H.pdf

(※11)https://www.nejm.org/doi/pdf/10.1056/NEJMc2010419?articleTools=true

(※12)https://doi.org/10.1093/cid/ciaa415

(※13)http://www.jstc.or.jp/uploads/uploads/files/information/Tobacco%20is%20the%20biggest%20aggravating%20factor.pdf

(※14)https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/32118640

doi: 10.1097/CM9.0000000000000775

(※15)https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa2002032

(※16)https://www.who.int/dg/speeches/detail/who-director-general-s-opening-remarks-at-the-media-briefing-on-covid-19---20-march-2020

(※17) https://doi.org/10.1016/j.immuni.2020.04.003

(※18) https://www.cdc.gov/coronavirus/2019-ncov/need-extra-precautions/groups-at-higher-risk.html

東京都 新型コロナウィルス陽性患者発表詳細
https://stopcovid19.metro.tokyo.lg.jp/

厚生労働省 新型コロナウィルス感染症について
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/dengue_fever_qa_00001.html

 94回日本感染症学会学術講演会 COVID-19シンポジウム
http://www.kansensho.or.jp/modules/news/index.php?content_id=146