検査

II-3) 検査

1.検査にはどういったものがあるでしょうか?

新型コロナウイルス感染症を診断するための検査としては、PCR法等による遺伝子検出法(検査材料は鼻咽頭ぬぐい液、あるいは喀痰、唾液(これまで、発症9日以内の有症状者が対象でしたが、717日より無症状者も対象になりました))があります。これに加え、血液(やその成分)を用いたイムノクロマト法による抗体検出法も一部で試験的に導入されています。インフルエンザの検査で頻用される抗原検査は、新型コロナウイルス感染症においても2020513日に保険適応となりました。現在国内で診断に使えると承認されているのはPCR検査と抗原検査になります。
肺炎があるかを調べるには、胸部エックス線検査や胸部CT検査、また血液検査などを行うことになるでしょう。

2.PCR法で陰性だった場合、新型コロナウイルス感染症で無いと言えるでしょうか?

PCR法では検体採取や検体保存の条件などで偽陽性(本当は新型コロナウイルス感染症で無いのに、陽性と出てしまう)、偽陰性(本当は新型コロナウイルス感染症であるのに、陰性と出てしまう)が起こりえます。この割合ははっきりしていませんが、PCR検査の感度(新型コロナウイルス感染症の方で、PCR検査が陽性となる割合)は現時点では高くて70%程度と考えられており、検査結果の判断は慎重に行う(PCR法で陰性でも、新型コロナウイルス感染症でないとは言い切れないことがある)必要があります。

<コラム>感度・特異度と陽性的中率

新型コロナウイルス感染症も含め、疾患の検査にはその精度を検証する必要があります。その指標として感度、特異度、陽性的中率などがあります。感度はその病気に罹患している人の中で、検査で陽性になった人の割合、特異度は病気に罹患していない人の中で、検査で陰性になった人の割合、陽性的中率は検査で陽性の人の中で実際にその病気に罹患している人の割合です。

以下の仮想例(罹患率10%、感度70%、特異度99%)を想定して、具体的な計算法を記載します。

 

罹患している

罹患していない

検査で陽性(+)

70人

9人

検査で陰性(−)

30人

891人

合計

100人

900人

検査を受けた人1000人あたりの罹患者を100人(罹患率10%)とした場合、罹患している人のうち検査で陽性となるのは、100×0.7=70人、罹患していない人で検査が陽性となるのは、900人×(1-0.99)=9人、となります。

この場合、陽性的中率は、70/(70+9)=0.89となります。つまり、検査を受けた人のうち、真の罹患者は、89%ということになります。

この陽性的中率は、罹患率によって変化します。罹患率が低下すると、陽性的中率も低下することになります。PCR検査をより多くの人に施行すると、その集団内での罹患率は低下することが予想されるので、陽性的中率は低下、つまり実際には罹患していないにもかかわらず陽性と判定される人が増加することになります。

3.PCR検査はどこで受けられますか? 今後、検査件数は増える?

2020年3月6日から新型コロナウイルス感染症のPCR検査は健康保険の保険適応となりましたが、現時点では検体採取の際に医療者がばく露する危険性があるため、感染防御設備の可能な専門外来病院(帰国者・接触者外来)もしくは同等の医療が可能な施設に限って行われています。(保険適応ではない、行政検査に関してはまた別となります)
感染者が無連絡で一般の病院やクリニックに行くと、そこで院内感染を起こしてしまう可能性があり、非常に危険です。
感染蔓延期の状況においては、重症者の救命を第一にし、持続可能な医療を実現する事が重要です。日本感染症学会、日本環境感染学会からは4月の時点で “ PCR検査の原則適応は、「入院治療の必要な肺炎患者で、ウイルス性肺炎を強く疑う症例」として軽症例には基本的にPCR検査を推奨しない。時間の経過とともに重症化傾向がみられた場合にはPCR法の実施も考慮する。” と提言し、また同時に、”指定医療機関だけでなく、全ての医療機関において医師の判断において検査が行える体制を整える。” としていました。
現在、PCR検査に特化した(感染管理を徹底した)場所で検査実施がされており(地域外来・検査センター (PCR検査センター) )、このような場所が増加する事で必要な検査件数が増加する事や、専門外来病院の負担を少しでも下げることが期待されています。検査数の更なる拡充の為、62日付けで厚労省新型コロナウイルス感染症対策推進本部より 新型コロナウイルス感染症に関するPCR等の検査体制の強化に向けた指針が示されています。

4.抗体検査とはどのような検査ですか? IgG,  IgMとは?

新型コロナウイルス感染症も含め、病原体に感染すると病原体排除の為に免疫系が発動します。その中で獲得免疫系では、免疫細胞の一つであるB細胞から病原体に特異的な抗体(タンパク質)が産生されます。抗体はウイルスの抗原を認識して結合し、病原体排除に貢献します。感染の初期に上昇する抗体がIgM、遅れてIgGが上昇し、IgMは初期の感染防御、IgGはその後の感染防御の主要な役割を果たします(下図)。

抗体は循環する血液中に存在するので、血液を採取して新型コロナウイルス(を構成するタンパク質)に反応する抗体を測定すれば、現在の感染や感染歴を調べる事ができます。この抗体検査の中でイムノクロマト法による検査は短いもので15分程度と短時間で測定でき、検査キットとして医療機関で試験的に導入されている所もあります。

検査キットを用いた抗体検査の長所はPCR検査と比較して、検体採取や検査手順がシンプルであり、短時間で済み一般的に感度が良い所です。一方で、新型コロナウイルス感染症においては、症状が出てから1-2週間程度経過しないとIgGが陽性に出ない為、感染初期を判定するのが困難である事が短所です。(一般にIgMが早期に上昇すると記載しましたが、新型コロナウイルス感染症においては検査キットによるIgMの検出がIgGと時期が変わらない、またIgM自体の検査の感度がIgGに劣るなどの報告が出ていますので、早期検出にIgMを用いるのは難しいと考えられます。)

その為、抗体検査は(PCR検査と補完して)ある程度時間の経過した感染、また感染歴があるか調べるスクリーニングとしての疫学的検査として用いられる事が考えられます。現状の課題として、感染により上昇したIgGがどの程度の期間まで上昇が維持されるのか(英国からでは、感染後3ヶ月後程度で高いウイルス中和抗体能を保持していた人が感染者集団中の60%から16.7%に低下したとの報告があります (https://www.medrxiv.org/content/10.1101/2020.07.09.20148429v1) )。また抗体陽性の方が再感染を起こさないかが不明である事、更に主にイムノクロマト法を用いる抗体検査キット間での結果のばらつきを克服する必要があり、改善の途上にあると言えます。なお、4月17日付で日本臨床検査医学会より”COVID-19における抗体検査についての基本的な考え方”として声明が出ていますので、参考にして下さい。

 一方、CLIA法やELISA法による抗体価の定量測定が可能な検査室用の抗体検査試薬については、中国では2月にはShenzhen YHLO Biotech Companyが承認を受け販売を開始しています。米国では、アボット社が4月26日に、ロシュ社が5月2日に検査室用の抗体検査薬の承認を受けました。キットに比べて感度、特異度は優れている事が示唆されていますが ( YHLO: https://ruo.mbl.co.jp/bio/product/allergy-Immunology/pickup/iFlash-SARS-CoV-2_IgG.html、アボット: https://jcm.asm.org/content/early/2020/05/07/JCM.00941-20、ロシュ:https://diagnostics.roche.com/jp/ja/products/params/elecsys-anti-sars-cov-2.html )、今後の更なる情報蓄積が待たれます。

保健センターでは、新型コロナウイルス感染症に対する公衆衛生学的な対応に関して定量的抗体検査の有効な活用法を探索する目的で、SARS-Cov-2抗体価測定に関する臨床研究を行なっております。2020年7月15日現在も東京大学の学生、教職員(構成員)の方を対象に研究参加者を募集していますので、御興味のある方はhttps://www.hc.u-tokyo.ac.jp/covid-19_antibody_epidemiology/をご覧下さい。

5.抗原検査とはどのような検査ですか?

抗体が認識するウイルス構成成分(表面のタンパク質など)が抗原となりますが、抗原検査は鼻腔や咽頭の拭い液を用いて新型コロナウイルス抗原の存在を調べるものです。

抗原検査は抗体検査と比較して感染早期に検出可能であり、また抗原検査キットによりPCR法と比較して検査が簡便で早期に検査結果が判明する利点があります。一方で開発には抗原を認識する良質な抗体の作製が必要であるのでキットの開発に時間がかかる事、検体はPCRと同様に鼻腔や咽頭の拭い液を用いる事もあり、感度が問題となる事が短所になります。

抗原検査キットは富士レビオ社が開発したエスプライン SARS-CoV-2(イムノクロマト法)が保険適応となりました。結果が陽性の場合は確定診断となり、また発症から2-9日目に関しては、結果が陰性の場合でも追加のPCR検査が必須としない (他は追加のPCR検査を必要とする) 方針となりました。これはこの期間中は抗原検査で陽性であるのに十分なウイルス量を有する研究結果から基づいています(https://www.mhlw.go.jp/content/10906000/000640452.pdf)。

また、専用の測定機器が必要になりますが、ルミパルス SARS-CoV-2も承認されており、発症後9日以内の有症状者が対象ですが唾液を用いた検査が可能となっています。抗原検査における厚労省のガイドラインは https://www.mhlw.go.jp/content/000640554.pdf にありますが、無症状者に対する使用は現時点では適さないと考えられています。

抗体検査と同様、抗原検査においても更なる臨床研究の結果が待たれます。