Q&A

VII Q&A

Q. 熱があるのですが、病院で診てもらえません。

A. 現在、新型コロナウイルス感染症の蔓延している状況で、医療現場では通常と異なる体制で診療業務を行っているところも多くあります。(注:保健センターも、東京大学の活動制限レベルに合わせた診療体制となっています。東京大学の活動制限指針により変更がありますので、HPでもご確認ください。)

 発熱で、新型コロナウイルス感染症が心配な時は、直接医療機関を受診するのではなく、電話相談の上、受診医療機関、受診方法をご確認ください。
●かかりつけ医のある方は、主治医に連絡をして、ご自身の症状が、自宅療養が望ましいのか、あるいは医療機関を受診する必要があるのか相談されることをお勧めします。
●かかりつけ医のいない方は、お住いの地域の帰国者・接触者相談センターの相談窓口に連絡・相談しましょう。
 
 新型コロナウイルス感染症の大半の方は軽症で経過すると言われていますが、一部の方では軽い症状から急に重篤な症状をおこす方がいます。ご自身の症状の変化に注意いただき、特に【緊急性の高い症状】(→III-4) 自身の感染を疑った場合の行動)にあてはまる場合には、直ちに各都道府県の連絡・相談窓口に連絡しましょう。
 電話がつながりにくいなどの場合もあるようですが、自身や大切な人の命を守るため、時期を逸することなく適切に行動しましょう。

 自身の感染を疑った場合の行動 III-4)もあわせてご参照ください。


Q. サイトカインストームとは何ですか?

A. 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)において、一部の患者では致死的な呼吸不全に陥ることが知られています。その分子メカニズムとして、サイトカインストームとよばれる病態が関与している可能性が指摘されています(Lancet. 2020;395:1033-1034)。

 サイトカインとは、感染症などが契機となり、炎症細胞(マクロファージ・リンパ球など)・上皮細胞・血管内皮細胞などから分泌される蛋白質です。サイトカインは免疫応答を調節する生理活性物質であり、ウイルス・細菌などの微生物に対する生体防御を担っています。サイトカインには様々な種類がありますが、このうちTNF-alpha・IL-6などは強い炎症応答を引き起こすことが知られており、炎症性サイトカインと呼ばれています。感染症などによって、大量に産生された炎症性サイトカインが血液中に放出されると、過剰な炎症反応が惹き起こされ、様々な臓器に致命的な傷害を生じることがあります。このような病態をサイトカインストームとよび、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、播種性血管内凝固症候群(DIC)、急性循環不全(ショック)、さらには多臓器不全に陥る原因となります。

 新型コロナウイルス感染症の重症例では、IL-6・IL-10・TNF-alphaなどのサイトカインの血中濃度の上昇、Tリンパ球の細胞数低下や機能異常がみられたとの報告があります(Chen G et al. J Clin Invest. 2020 Apr 13)。サイトカインストームが生じている新型コロナウイルス感染症の重症患者に対して、IL-6などのサイトカインの働きを抑える薬剤が有効である可能性があり、臨床試験が進められています(Xu X et al. Proc Natl Acad Sci U S A. 2020 Apr 29)。


Q. 免疫抑制剤を服用中ですが、継続するのが心配です。

A. 様々な基礎疾患のためにステロイド剤、免疫抑制剤および生物学的製剤などを使用されている方がおられますが、このような場合、一般に新型コロナ感染症の発症のリスクは高まると考えられ、注意喚起されています。しかし実際の症例の報告は現時点ではありません。また、免疫抑制剤を使用されている方が重症化のリスクがあるとの報告も現時点ではありませんが、新型コロナウイルスの病態に免疫が深く関わっていることから重症化のリスクが高いとも考えられます。しかしながらこれらの薬剤による基礎疾患の治療を継続することも非常に重要ですので、治療内容についてはかかりつけの医師とご相談いただき、自己判断でこれらの薬を中断したり減量したりすることは必ず避けてください。


Q. 10万円給付に関するメールが来ましたが?

A. 新型コロナウイルス感染症に関連して、一律10万円の給付に便乗したとみられる不審なメールが確認されています。「特別定額給付金」の給付のために、区市町村や総務省がATM操作をお願いしたり、手数料の振込みを求めることは絶対にありません。
 不審なメール・電話がきたら110番通報をよろしくお願いいたします。また、警視庁犯罪抑止対策本部からツイッターで特殊詐欺等について、情報を配信していますのでご覧ください。
【問合せ先】上野警察署 03-3847-0110 (内線2613)
警視庁HP https://www.keishicho.metro.tokyo.jp/kurashi/index.html


Q. 若年者は重症化しないって本当ですか?

A. Ⅴ-2) 若年者とコロナウイルス感染症 をご参照ください。


Q. 男性の方が、死亡率が高いのでしょうか?

A. まず死亡率という言葉の意味ですが、「新型コロナウイルス感染症に罹患した人が死亡する確率(致死率)」という解釈の他に「新型コロナウイルス感染症に罹患していない人が、新型コロナウイルス感染症で死亡する確率」という解釈も可能です。後者に関しては、1.「新型コロナウイルスへの感染のしやすさ」と2.「感染した後の重症化・死亡のしやすさ」とに分けて考える必要があります。そしてもし死亡率について男女差があるとしたら、その理由が男女の生物学的な差によるものなのかどうか、あるいは基礎疾患や喫煙率などの背景因子が男女で違うために死亡率も男女で異なるのか、とうことを考慮する必要があります。

 このうち1.「新型コロナウイルスへの感染のしやすさ」については、WHOの4月18日の発表によると、感染者の男女比は1.03:1とほぼ同数となっています (1)。ただし、Global Health 50/50という団体がpublic dataを用いて男女別に感染者数などをまとめた表をウェブサイトに掲載していますが、これによると国によって感染者数の男女比にはある程度のばらつきがあるようです (2)。

 では2.の「重症化・死亡のしやすさ」はどうでしょうか。上述のGlobal Health 50/50のウェブサイトで国別男女別の死亡者数や致死率を見ることができますが、ほとんどの国では男性の死者が多く、致死率も男性の方が高くなっています。報告されている論文では、重症例と軽症例の男女比に差がなかったという報告 (3)がある一方、男性の方が重症化しやすく、死亡例では生存例より男性が多かったという報告 (4)があります。

 「男性の致死率が女性より高くなる理由」は明らかになっていませんが、おそらく複合的な要因でしょう。生物学的な性差による影響と、基礎疾患や生活習慣などの背景因子によるものとどちらにも可能性があります。前者の例としては男女の免疫能の違い、後者の例として背景疾患の違いや喫煙などが言われています。糖尿病や高血圧、慢性呼吸器疾患などの基礎疾患や年齢が新型コロナウイルス感染症の重症化の危険因子であることは知られていますが、ほとんどはあまり男女差がないものが多いようです。しかし、喫煙によって引き起こされる慢性閉塞性呼吸器疾患は男性の方が多い疾患です。喫煙は新型コロナウイルス感染症の重症化リスクになることが報告されていて (5)、喫煙率も一般的に男性で高いことが知られていますから、喫煙とそれに伴う慢性呼吸器疾患が男性の致死率の高さに貢献している可能性はありそうです。ただし証明にはまだ今後の研究成果を待つ必要があります。

(1) https://www.who.int/docs/default-source/coronaviruse/situation-reports/20200418-sitrep-89-covid-19.pdf?sfvrsn=3643dd38_2
(2) http://globalhealth5050.org/covid19/
(3) Wang D, et al. Clinical Characteristics of 138 Hospitalized Patients With 2019 Novel Coronavirus-Infected Pneumonia in Wuhan, China. JAMA. 2020 Feb 7.
(4) Jin JM, et al. Gender Differences in Patients With COVID-19: Focus on Severity and Mortality. Front Public Health.2020 Apr 29.
(5) Liu W, et al. Analysis of factors associated with disease outcomes in hospitalized patients with 2019 novel coronavirus disease. Chin Med J (Engl). 2020 Feb 28.

Q. レニン・アンジオテンシン系阻害剤は、新型コロナウイルス感染症に影響がありますか?

A. 1. 新型コロナウイルスの感染経路としてのアンジオテンシン返還酵素2(ACE2)

 新型コロナウイルスは細胞表面のアンジオテンシン返還酵素2(angiotensin-converting enzyme 2:ACE2)を介して感染します[1]。ACE2は主に心臓、腎臓、小腸に発現する他、肺組織の一部に認められます[2]。

2. レニン・アンジオテンシン系(RAS)阻害薬とACE2

 降圧薬の一種であるレニン・アンジオテンシン系阻害薬(RASi)はアンジオテンシン返還酵素阻害薬(Angiotensin-converting-enzyme inhibitor:ACEi)と、アンジオテンシン受容体拮抗薬(Angiotensin II receptor blocker:ARB)に分けられます。RASi投与によりACE2の発現量が増加し、新型コロナウイルス感染症に感染しやすくなったり重症化しやすくなるのではないかという心配の声が上がりました[3]。反対にRASiを投与することにより新型コロナウイルス感染症で起こる肺障害を減少させるのではないかという仮説も提唱されました。

3. RAS阻害薬と新型コロナウイルス感染症

 中国の9病院に入院した新型コロナウイルスに感染した高血圧患者1128人(年齢中央値64歳)の解析では、RAS阻害薬を内服していた188人は内服していなかった940人に比べ、多変量調整後の全死亡リスクが低くなりました(調整後ハザードリスク0.42、95%信頼区間0.19-0.92)[4]。また、中国武漢中央病院に入院した1178人(年齢中央値55.5歳)の全入院死亡率は11.0%でしたが[5]、その内高血圧患者は362人(30.7%、年齢中央値66.0歳)で、115人がRAS阻害薬を内服していました。高血圧患者の全入院死亡率は21.3%でした。重症及び非重症感染者中のRAS阻害薬内服者の割合(32.9%対30.7%、p=0.645)と非生存者と生存者の割合(27.3%対33.0%)に差は認めませんでした。

 ニューヨーク大学Langone Health病院電子カルテで新型コロナウイルス感染検査を受けた12,594人中5894人(46.8%)が陽性、1002人(17.0%)が重症(集中治療室、人工呼吸器装着、または死亡)でした[6]。4357人(34.6%)が高血圧患者、その内2573人(59.2%)が新型コロナウイルス陽性、634人(24.6%)が重症でしたが、RAS阻害薬を含む5つの降圧薬クラスと新型コロナウイルス陽性率、重症者の割合に関連を認めませんでした。

4. 結論

 現時点では新型コロナウイルス感染症におけるRAS阻害薬の使用により新型コロナウイルスの陽性率や重症者の割合に差があるという報告はありません。また投与により死亡率が下がったという後ろ向き研究による報告もありますが、他の報告では差を認めませんでした。新型コロナウイルス感染症のためにRAS阻害薬を変更・中止する明確な根拠はなく、海外及び日本の学会の提言においても今までの治療を継続することが推奨されています[7-10]。

参考資料

[1] Zhou P, Yang X Lou, Wang XG, et al. A pneumonia outbreak associated with a new coronavirus of probable bat origin. Nature. 2020;579(7798):270-273.
[2] Hamming I, Timens W, Bulthuis ML, Lely AT, Navis G, van Goor H. Tissue distribution of ACE2 protein, the functional receptor for SARS coronavirus. A first step in understanding SARS pathogenesis. J Pathol. 2004;203:631–7.
[3] Fang L, Karakiulakis G, Roth M. Are patients with hypertension and diabetes mellitus at increased risk for COVID-19 infection? Lancet Respir Med. 2020;8(4):e21.
[4] Zhang P, Zhu L, Cai J, et al. Association of Inpatient Use of Angiotensin Converting Enzyme Inhibitors and Angiotensin II Receptor Blockers with Mortality Among Patients With Hypertension Hospitalized With COVID-19. Circ Res. 2020 Apr 17. doi:10.1161/CIRCRESAHA.120.317134.
[5] Li J, Wang X, Chen J, et al. Association of Renin-Angiotensin System Inhibitors With Severity or Risk of Death in Patients With Hypertension Hospitalized for Coronavirus Disease 2019 (COVID-19) Infection in Wuhan, China. JAMA Cardiol. doi:10.1001/jamacardio.2020.1624.
[6] Reynolds HR, Adhikari S, Pulgarin C, Troxel AB, Iturrate E, Johnson SB, Hausvater A1, Newman JD, Berger JS, Bangalore S, Katz SD, Fishman GI, Kunichoff D, Chen Y, Ogedegbe G, Hochman JS. Renin-Angiotensin-Aldosterone System Inhibitors and Risk of Covid-19. N Engl J Med. 2020 May 1.
[7] https://www.escardio.org/Councils/Council-on-Hypertension-(CHT)/News/position-statement-of-the-esc-council-on-hypertension-on-ace-inhibitors-and-ang
[8] https://www.eshonline.org/spotlights/esh-statement-covid-19/
[9] https://ish-world.com/news/a/A-statement-from-the-International-Society-of-Hypertension-on-COVID-19/
[10] 日本腎臓学会.腎臓病診療における新型コロナウイルス感染症対応ガイド.2020年5月1日

 

Q. 新型コロナウイルス感染症と診断されずに亡くなっている人が多いのでしょうか?

A. 日本は他国に比較しPCR検査が絞られているので、診断されていない無症候性感染者が多数いるのではないかと推測されています。今後抗体検査などでその実態が解明されていくことになりそうですが、現時点では正確に把握できておらず、新型コロナ感染症と診断されずに亡くなった方がいないとはいいきれません。

 一方で、厚生労働省から2020年5月26日に発表された人口動態統計をみてみると2018年、2019年、2020年の1月から3月の総死亡者数の推移は特に大きな変化はありません。新型コロナウイルス感染症と診断されずに亡くなった方がいたとしても、それによって総死亡者数が増大したことは示されていません。また、感染者数の多い東京都の死亡者数の推移を比較しても、著明な増大はみられません。感染者数の増大があった4月以降の推移が重要になるので今後の人口動態を再度検討する必要がありますが、今のところは新型コロナウイルス感染症と診断されずに亡くなっている方は目立って多くはいないと考えられます。